「会社売却って実際どういう流れ?」
「どんな事が行われるの?」
「会社売却を考えているが実際何から行えばいいかわからない。できれば高く売れたらいい。」
未だ、日本では親族以外の事業継承いわゆるM&Aが一般化しているとは、言い難い。
それゆえ、会社売却やM&Aといったことを実際に行った体験談も少ないのが現状だ。
今回は、会社売却の流れから、できるだけ高くで会社を売却する秘訣を私の実体験をもとにお伝えしよう。
この記事を書いた私は、2015年資本金100万円で設立した会社を2020年に会社売却した経験がある。
会社売却の流れ

会社売却(M&A)の流れというのは、おおよそ決まっている。
会社売却において買収する企業が行う手順というのは、決まっているから。
一般的な会社売却の流れ
- ノーネームシートの公開
- オファーのあった企業と秘密保持契約(NDA)締結後に交渉開始
- 交渉した企業の1社と独占交渉
- デューデリジェンス開始
- 基本合意
- デューデリジェンス終了
- 最終合意、成約
以上が会社売却が終了までの流れだ。
恐らく、企業の規模に関わらず、事業譲渡(会社の売却でなく、会社のいち事業の売却)でもこの流れが基本となる。
それでは、各項目どのようなものか、解説していこう。
ノーネームシートとは
売却を希望している会社の匿名のPR表のようなもの。
この段階では、まだ会社の売却を希望しているだけなので、どの会社なのかということが特定されにくい状態で会社のPRを行う必要がある。
会社売却となると、従業員、顧客のみならず、取引先にも混乱が生じる可能性があるので“NoName”となっている。
ノーネームシートを公開する場所
ノーネームシートは買収してくれそうな会社が集うところに公開しなくてはいけない。
具体的には、
- 各地域の商工会議所の事業継承部に公開
- ビズリーチ・サクシードに公開
- 事業継承センターに公開
- M&Aナビに公開
- M&Aキャピタルパートナーズ に公開
- みどり財産コンサルタンツに公開
全て、売り手は無料で登録できるので、買い手がつくチャンスを逃さない為にもすべてに登録しておく。
ただし、成約時の手数料が無料のところもあれば有料のところもあるので、そのあたりは、交渉しながら、売却価格との釣り合いを見て最終的にそこで売却するか検討すればいい。
特にビズリーチ・サクシードは売り手は全て完全無料で、一番買い手も多く成約率も高いのでこれは外せない。
ノーネームシートはとにかく買い手企業の目にいかに多くとまるかにかかっている。
公開できるところには全て公開しておくことをおすすめする。
ノーネームシートに記載すること
どこに公開するかによっても多少相違があるが、業種、事業内容、企業規模と業績の概要をほぼ必須。
会社名が匿名なので、業種、事業内容、企業の規模感と業績概要でPRするしかないから、この辺りの項目は、どこに公開するにしてもほぼ必須と考えてもらいたい。
業種は、製造業や飲食やサービスなど大まかな分類で良い。
事業内容は、もう少し詳細に、取扱商品や販売先まで記載する。
企業規模と業績概要に関しては、前期、前々期の
- 売上高
- 損益
- 資産
- 負債
- 減価償却
- 従業員数
などが主なもの。
だから、ノーネームシート公開前に最低限この辺は把握していなければいけない。
オファ―があった企業との交渉
スピード感を持って財務諸表を買い手希望の企業に渡すことが重要。
買い手はスムーズに財務諸表を見せてくれるかどうか、その辺で信頼の度合いを測ってくるから。
仮に、出し渋ると「何かマズイことでもあるのか」と疑われることになる。
ノーネームシート公開前に、前期、前々期の決算書は全て事前にPDFにして手元に持っておくといい。
基本的には、秘密保持契約を結んだ後に交渉になるので、買い手希望の会社から自社の決算書が漏れることはないし、いずれにせよ提出しなければいけない書類であることには違いない。
この決算書をもとに更に交渉が進められる。
デューデリジェンスとは?
買収側が行う、企業査定といえば分かりやすいだろうか。
買い手からするとM&Aにおいて、このデューデリジェンスに全力を注いでくる。
様々な査定が行われて、本当に買収するに値する企業家否かを判断する。
デューデリジェンスで何を見られるのか?
- 反社会的勢力との関りがないか?
- 資産計上されているものは、本当に実在するのか?
- 隠されている負債はないか?
- そもそも事業自体実在するのか?
- …etc
このように、売却側からすると、何か嫌疑をかけられているかの如くきついフェ―ズ。
同様に、買収企業側もこれまで何もかかわりのない会社について、何か落ち度がないかチェックしなければいけないのでこちら側もM&Aでは一番きついフェーズである。
とにかく、売り手側は、やましいことがなければ、嫌がらず全て提示して協力するとスムーズに進む。
基本合意とは?
前契約のようなもの。
ちなみに、この段階では従業員に状況を話していい段階。
ここで、買い手は独占交渉権を獲得する。
よっぽどのことがなければ、成立する段階である。
ただし、デューデリジェンスは全て終了していない場合もある。
基本合意でなされる契約とは?
- 独占交渉権
- 残りのデューデリジェンスに協力すること
- 仮に破談になった場合の、これまでお互いが提出し合った書類の処理の方法
- 売買価格
- 売買日時
- 譲渡後の運営について
- …etc
これらが、基本合意で締結される事項になる。
最終合意、成約の段階で行われることは?
M&Aの最終段階なので、ここですべての契約が終了になる。
ここでは、取引先、その他社外にM&Aが成立したことを広報してもいい段階。
最終合意書、譲渡契約書が交わされた段階で、形式上のM&Aは終了になる。
ただし、この契約移行すぐに買収企業が運営できるわけでないので、その後PMI(引継ぎ)が行われ、売り手はこれに一定期間協力することになる。
また、買収金の入金もこの契約後通常1週間以内に履行される。
最終合意でなされる契約とは?
- 買収金額
- 買収金の入金日
- 譲渡するもの(通常株式会社であれば株式)
- 仮に重大な隠ぺいが発覚した場合の処理の方法
- PMIに関して
以上が、会社(事業)売買の流れと内容である。
どんな会社でも買ってもらえるのか?
法に触れるような事項がなければ、基本的にはどんな企業、事業でも買い手がつく可能性がある。
買い手側も様々なニーズがあるので、一概に規模が大きい会社や、既に儲かっている会社だけに買い手がつくわけではない。
買ってもらえる会社・買ってもらえない会社の例
買ってもらえる会社
- 大企業
- 中小企業
- 個人経営
- 現時点で黒字
- 現時点で赤字
- 債務超過
- …etc
このように、会社規模や業績は関係なく、買い手のニーズに即している会社であれば十分に買われる可能性がある。
もちろん、業績が良い会社の方が成約率は高いだろうが。
買ってもらえない会社
- 社長がいなければ売上が立たない、俗にいうカリスマ社長の会社
- 反社会的勢力の影が株主、役員、従業員、顧客にある。
- グレーな業種
- …etc
このような会社は、買い手からすると買いづらい会社だ。
だから、会社売却が念頭にあるのであれば、常日頃からこれに該当しないように気を付けなければいけない。
会社売却の私の体験談

人生で一番働いた期間が、このM&Aを成立させるまでの期間だった。
起業してM&Aまで経験する人は、日本ではまだ少ない。
今後は多くなると思うが。
だから、会社売却の情報が少なく、また前項でお話した通り、一人でデューデリジェンスを乗り切るのが大変だった。
特に大変だったデューデリジェンス体験
私の会社は、九州にあり従業員9名、資本金100万円の小さな会社だった。
しかし、それでも提出する書類も多く、しかも関東にある会社が買い手だったので、頻繁にメール、電話でのやり取り。
書類もPDFに全て変換して送信する手間もあった。
ざっと、今思いつくだけでも送付した書類は、
- 2期分の決算書
- 前期の総勘定元帳
- 法人クレジットカード利用明細2カ月分
- 当期の損益計算書
- 当期の資産残高表
- 会社通帳2冊各1か月分
- 給与控除一覧6カ月分
- 社員の履歴書
- 金融機関借入金の契約書(4本分)
- リースの契約書(2本分)
- …まだまだあったような
それに加え、その資料一つ一つに質疑がメールもしくは、電話で来るので、送付後も対応に追われる。
だから、もし会社売却を考えているのであれば、早期のうちに、というか常日頃から書類は細かく整理と把握はしておいた方がいい。
そして、財務諸表の質問が主な質問事項になる。
だから、財務諸表を経営者自身読めなければ、かなり苦労するかと思う。
M&A≒デューデリジェンスという認識で間違っていないと思う。
そのくらいデューデリジェンスが重要。
価格交渉は?
おおよそ相場が決まっているので、私の場合交渉らしい交渉は行わなかった。
財務諸表上の「資産」「負債」のバランスと、当期の利益予測からおおよその売買価格というのは決定付けられるから。
大まかな会社の売却価格の目安
当期予測される利益の5年分が売買価格の相場。
例えば、当期、1000万円の利益が見込まれるのであれば、売却価格は5000万円が目安。
ただし、業種や買収側の企業の状況で多少は変動する。
大幅に減額される場合は、売買を行う時点で資産より負債が大幅に大きいときは、この限りではない。
会社を高く売る極意

会社を高く売るには、3つのポイントがある。
会社の売買というのは、単純に儲かっている会社が高く売れるわけではなく、また赤字だから売れないというのもではない。
だから、できるだけ高く売却するにはポイントがある。
高く売却するための3つのポイント
- とにかく多くの会社に売却情報が目に留まるようにする。
- できるだけ多くの買い手と同時交渉する。
- 書類、特に財務諸表と労務管理に関する書類はデータで手元において置く
【1.とにかく多くの会社に売却情報が目に留まるようにする。】について
買い手が現れるかどうか、に関してはいかに多くの買い手企業の目に留まるかかカギ。
どんなに優良な会社でも、買い手の目に留まらなければそもそも買い手候補が手を上げることはない。
特に、ネットのM&Aプラットフォームには必ず登録すること。
現在、日本の多くのM&Aはネット上で行われている。
これを利用しないことは、9割以上の買い手を失っているようなもの。
実際、わたしが売却した会社は、買い手が8社手を上げたが、そのすべてがネットのM&Aプラットフォームだった。
下記、はネットのM&Aプラットフォームばかりではないが、とりあえず全てに登録して、買い手から見逃されることがないようにしよう。
登録するべきM&Aプラットフォーム
- 各地域の商工会議所の事業継承部に公開
- ビズリーチ・サクシードに公開
- 事業継承センターに公開
- M&Aナビに公開
- M&Aキャピタルパートナーズ に公開
- みどり財産コンサルタンツに公開
【2.できるだけ多くの買い手と同時交渉する。】について
買い手が1社しかなければ、相手の条件を多く飲まなければいけなくなる。
大変だが、同時に複数と交渉することが重要。
提出を求められる資料、質問事項は大抵決まっているので、買い手候補各社、全く違う対応をしなければいけないこともないので同時に3社くらいであれば一人で対応可能。
その中で良い条件のところと、基本合意までたどり着くことに専念する。
【3.書類、特に財務諸表と労務管理に関する書類はデータで手元において置く】について
はじめて買い手候補が手を上げた時、恐らく最初に財務諸表の提出を求められる。
この時に、手元になく時間がかかると、買い手候補から「買い手が自分たちだけ」と足元を見られ不利な交渉に持ち越される。
また、資料提出に時間がかかると、その分交渉期間が長くなるので、買い手候補がそもそもフェ―ドアウトしてしまう可能性が高くなる。
そうなると、少ない買い手としか交渉できないので選択肢が狭まる。
だから、あらかじめ提出を求められそうな資料は手元にデータとして持っておこう。
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